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    『ピエロどうもありがとうピエロ』劇評(神野龍一)

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      努力クラブ第11回公演
      「ピエロどうもありがとうピエロ」
      2016年8月6日観劇@アトリエ劇研

      男(大石英史)は、仕事がうまくいかず、上司(酒井信古)に注意されてばかりいる。
      彼は他人との距離感を図ることができない。
      質問に対して応えるまでの(熟慮したふりの)時間、(反省したふりの)態度、そういったふるまいができない故、質問に対してまるで喧嘩越しのように即答し、仕事へのやる気が無いように正直に応えてしまう。起こった上司にやる気が無いのかときかれても「はい」と即答してしまうから、やる気はないのだ。

      対し上司は、過剰にまでそういったふるまいを徹底しようとするため、常に齟齬が生じてしまう。連れ立っての営業先へ時間を割いての謝罪、それもある種の過剰であるが、過剰であることは、仕事への集中力を削ぎ、周囲に無駄なエネルギーを消耗させ、効率の低下を招いてしまいこそすれ、叱られたりミスだといわれたりするものではないようだ。

      「無能な部下」と「仕事のできる上司」。この2人は「不器用さ」と「常識」の対比ではない。精神的にパワハラで追い詰め、自己満足のために人を巻き込む上司は、部下が壊れることさえ見越しているのだが、それすら織り込んでいる。ただ、この過剰さは社会的な立ち位置のせいか、現代では批判されにくい。

      男は、彼女に連れられてサーカスを観に行き、そこでピエロ(丸山交通公園)を見て大笑いをする。ピエロは失敗することで笑われる。男はピエロに憧れる。 一方でピエロは、自分の笑われる役割に飽々している。何をしても笑われてしまう、同じ反応をされてしまうということは殆ど自分の存在が無意味であることと同意であるから。

      男の前に突然現れるクイズ男(佐々木峻一)、彼は作中に時々唐突に現れては、常に同じ質問を繰り返す「どうですか?」男は答える「なんだか、むしゃくしゃしています」クイズ男「正解です!」クイズ男は、ある時クイズ勝負をした際、「絶対に答えられないクイズ」を相手に問われ、それ以降出会う人にこのクイズをすることになった。「絶対に答えられないクイズ」それ自体は作中では公開されない。クイズ男が正解と述べている以上、「どうですか?」ではないようだ。

      「絶対に解けない問い」というと連想するのが、ソフォクレス「オイディプス王」にあるスフィンクスのクイズだ。このギリシャ悲劇の傑作の中でもクイズが登場する。「朝は4足、昼は2足、夜は3足の生き物とは何か」オイディプスは答える「人間である。」スフィンクスは敗れ去り、死ぬ。これは多くの人が知っているだろう。
      しかしこの回答には、他の解釈が存在する。オイディプスは自らを指さし、「答えは人間である」と言った。実は、その謎の答えは「腫れ足」という意味の名前を持ち、幼少期足をピンで貫かれ、後に自身の悲劇的な運命を知って絶望のあまり盲目になり杖をついて歩くことになる「オイディプス自身」のことであった、というものだ。オイディプスはそれには気づかず、己を指さして「人間」答える。ひとりの人間としてのオイディプス。彼の答えは「正解」ではない。しかし、彼の態度は正解を指し示してしまっている。彼は常に無自覚なまま、自身の運命にもとづいて行動している。それを知り、後の運命までも知りうるスフィンクスはその恐ろしさに死んでしまったというものだ。これには、オイディプスの「言葉」と「しぐさ」に齟齬が存在する。そして、この作品も常にそういった言葉としぐさの齟齬が問題となっている。上司は「頑張ります」と答えることを期待して問う「帰りたいか?」と聞かれた男はそのまま即答し「はい!」と言って帰ってしまう。

      クイズ男は逆にこう問う「どうですか?」これは、「何を答えても正解となる」問いである。これは、スフィンクスと正反対の問いだ。

      また、ピエロは対称的にあらゆる言動、ジェスチャーが笑いと解釈されてしまう人間だ。途中挿入されるインタビューで、彼はいじめられっ子だった過去から、その笑われる姿を笑わせるという主体に転倒することで克服したことを語る。しかしそこにも絶えず悩みは存在する。彼は何を言っても冗談や笑いとしてしか理解されないというものだ。この「一つの役割しか与えられない男」というのは合田団地の作品でよく登場する。他には「つっこみ男」など。彼等は一つの役割しか与えられない内にその役割の中の矛盾によって自己崩壊を起こす。それはクイズ男もピエロも一緒だ。

      しかしピエロに憧れる男はその齟齬には気づかない。彼にはそういった齟齬を感じる距離感をもっていないからだ、単純にピエロになれば怒られないと思っている。彼のこの「距離感」のなさは恋人との近さ、異様なまでの密着感でも現されている。その彼女の関係ももちろん一致することがなく、一つの齟齬をきっかけに破綻をもたらすのだが…

      男はピエロに会ってその憧れを口にする。あなたのようになりたい。しかしピエロの反応はつれない。男はピエロの内面など興味がない。ただ、役割を担っていることだけに憧れがあるのだ。男は逆に社会的な役割を持たされていない。彼の答え「むしゃくしゃしています」はその社会的な理想と自己像との矛盾を示しているのだが、その距離感のない男はそこに考えをもたらすことができない、というよりそここそを見ていたくないために彼は社会的な役割をうまく背負うことができないのだ。結果、彼は逆上し上司ではなく、ピエロに凶行を行う。

      ここで書いていることを見るとこれは悲劇だと思うかもしれない。しかし、悲劇は自己の運命とぶつかる内面をもつ自己がいないと悲劇ではない。クイズは謎を答える回答者がいないとクイズが成り立たないないように。男は内面を持たない。それ故今作は喜劇なのだ。上司や彼女とのやりとりのズレは、だからこそ奇妙なおかしみを残す。しかし、ハイライトとなるピエロに逆襲される、夢とも現実ともつかないシーンによって、男は「反省」を得る。反省こそ、常に自我を分裂させ自己点検を行う理性(フーコー)の萌芽である。ここで男は自己を得る。そしてここで物語は反転し、それまでこれを喜劇として見ていた人には悲劇的に、逆に悲劇として見ていた人には喜劇的に映るだろう。「ピエロどうもありがとうピエロ」とピエロを2回繰り返すのは単なる語感だけではない。それは男が自我を手に入れたということなのかもしれない。

      筆者
      神野龍一
      ライター、上方落語評論家
      関西文化の活性化を目指し、自身が主宰している雑誌「関西ソーカル」が京都新聞や朝日新聞に取り上げられるなど、これからの活動が最も注目されるライター。他のレビューはtofubeats「first album」(UNCANNY)など
      https://kansaisocal.org


      公演情報


      努力クラブ第11回公演
      ピエロどうもありがとうピエロ
      作、演出=合田団地

      日時=
      2016年8月5日(金)〜8日(月) 計6ステージ
      アフタートーク=
      5日19:15〜月亭太遊(ネオラクゴ家)
      8日19:15〜 西マサト国王(B級演劇王国 ボンク☆ランド)
      9日14:00〜 丸山交通公園(丸山交通公園ワンマンショー)

      会場=アトリエ劇研

      料金=
      一般前売2,000円 一般当日2,500学生前売1,700円 学生当日2,200円


      キャスト 安藤ムツキ(劇団月光斜)、池浦さだ夢(男肉 du Soleil)、大石英史、キタノ万里(dracom)、熊谷みずほ、酒井信古、佐々木峻一、杉本奈月(N2)、西野恭一(劇団ちゃうかちゃわん)、ヒラタユミ(ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。)、丸山交通公園(丸山交通公園ワンマンショー) スタッフ 舞台監督=濱田真輝 照明=吉津果美 衣装メイク協力=若松綾音 小道具=佐々木峻一 映像撮影=九鬼そねみ 写真撮影=小嶋謙介 宣伝美術=きんにく、築地静香 制作=築地静香 協力=劇団走馬灯、オセロット企画、B級演劇王国 ボンク☆ランド、丸山交通公園ワンマンショー、月面クロワッサン 共催=アトリエ劇研 企画・製作=努力クラブ

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